冷たい手
12月19日(火)
寒い季節がやってもうベッドから出るのが辛いです。
今にも雪が、降りだしそうです。
この時期をクリスマスというのでしょうか?
そんなのはもうとっくに忘れてしまいました。
ただ、街がイルミネーションに輝いているのを見るのは好きです。
キレイですね。
大きかったり小さかったり、色とりどりの飾りが施されたもみの木がどこの家にも置いてあります。
あれはクリスマスツリーというそうです。
クリスマスっていつですか?
ぼくにはあまり関係なさそうなので、あえて知らないままでいます。
「母さんがマフラー編んでくれた」
そう言ってキラは凍える風が吹くなか、出掛けて行った。
寒いのが大の苦手のはずなのに。
彼はうれしそうに、スキップをちいさく踏みながら駆け出した。
鼻歌も歌ってたかな?
何のフレーズかはわからなかった。
キラが帰ってきた。
右手にはちいさいバケツに、なにやら白いサラサラしたものを入れている。
そしてなにやらニコニコ笑っている(なんか……不気味だ。こいつ幽霊じゃないのか?)。
「天然かき氷!!」
そう叫ぶと、それを冷凍庫にしまってことなきをえた。
雪を冷凍庫にしまうまでの時間は本当に短いものだったけど、その間にずいぶんいろいろなパターンが頭の中を駆け巡った。
「シン滅殺ーーーっっ!!」
などとわけのわからないことを叫んで、その雪を投げるのではないだろうか。
「さっそく食べよーってなんでシロップが無いの?!冬だから用意してないなんてフェアじゃねぇーー!!」
などと泣きわめきながら雪を投げるのではないだろうか。
どのみちコイツは、わけがわからない。
まるで米に字…。。。ってなんだっけ。
キラが夜ご飯を作りはじめる。
においからして、グラタンのようだ。
熱そうな料理…。
なのに。
手が震えている。
キラの隣まで歩いて行く。
ゆっくりと、そして俊敏に。
手をつかむ。
「……?」
不思議そうな顔で、色の悪い唇でおれの名前を呼ぼうとするから。
「…んっ…!」
キスでそれを拒んでやった。
短いキスだったけれど、唇を朱に染めるには十分だった。
「シン…?どうしたの?」
唇が冷たい。
握った手も、冷たい。
「うわぁ…」
キラが感嘆の声をあげる。
すると丸い目を細めて、ふんわりと言った。
「シンの手、あったかいね」
全くコイツは。
自分を基準にしすぎだ。
「アンタの手が冷たすぎるんだよ」
だいたい何でグラタン作ってるのに、手が冷たいんだ…?
「ぼくって優しい?」
「は?」
急に何を言うんだ、コイツは。
まさに雪を投げられた気分だ。
「昔、幼馴染みから聞いたんだ」
あぁ、あのお節介でヘタレな俺の上司だった…。
あの人はけっこう洒落た迷信を知っている。
最初はこの人から教わったんだと思っていたらどうやらそうでもないようだ。
そう、クリスマスも知らないこの人。
あ、そうそう。手の話だったっけ?
「手が冷たい人は、心があったかいんだって!」
全く。
コイツは確信犯か?
どのみち、答えてなんかやらない。
優しい、なんてコトバで、キラのことを例えられるわけがない。
だって………
「じゃあ、心の冷たいおれのあったかい手でも握っとけよ」
「それはぼくが優しいって認めてるってことだよね?」
「それは俺が心が冷たいと認めてるってことか?!」
手を握りあって、2人の顔はおかしく歪む。
それが怒りのものだったか喜びのものだったかは、2人だけが知っている。
冷凍庫の中の雪は、きっと明日には氷のかたまりになっているだろう。
けどそんなことは別にいい(キラは哀しむだろうけど…あ、でもとばっちりで氷を投げつけられたら嫌だな)。
頬は赤く、手は冷たく。
この愛しい存在は、言葉では言いあらわせない。
大丈夫。
気持ちは十分伝わっているから……。
お互いに通じてるから……。
「めりーくりすます?」
「は?」
すっかり以心伝心していると思ったのに。
こいつは全く別のことを考えていたようだ。
「メリークリスマス、シン」
「キラ・・・・・・・・・」
クリスマスは6日後だよ・・・。
でもまぁ・・・ね。
「だんだんあたたかくなってきたな」
手。
「あ、うん。ありがとう」
「メリークリスマス」
冷たい。
雪のような君の手に。
あたたかい、俺の手を・・・・・・・・・。
聖なる夜を――――――――。
12月21日(木)
クリスマスは終わったはずなのにツリーがいつまでも飾ってあるのが不思議でアスランに理由を聞いたら、まだクリスマスはきていないそうです。
シンに嘘つかれました。
騙されました。
今すぐにでも冷凍庫に冷やしてある雪を投げつけてやろうと思います。
2006.12.19
あとがき(反転)
クリスマス小説です。
とりあえず、伝えたい言葉は心の中にあるということで。
キラの日記帳とかあったらぜひ見てみたいものですね。